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きいたんとルー きいたんとお風呂。

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きいたんとルー きいたんとお風呂。



 




昔々、あるところに、
きいたんというたべこさんが住んでいました。
たべこというのはちいさいひとのことです。
ちみことも呼ばれます。
食べて、寝て、にこにこして、
みんなに大事にしてもらうのがお仕事です。
きいたんもお兄ちゃんやお姉ちゃんにお世話をしてもらい、
仲良しの犬のルーと毎日幸せに暮らしていました。

ある日、朝ごはんを食べながらお父さんが言いました。
「きいこ、お父さんは今日、
 帰りが遅くなるから、先にお風呂入っとけよ。」
「あい。」
きいたんはお利口にお返事をして、
お父さんに行ってらっしゃいのバイバイをして、
その日はお世話係の紅玲お姉ちゃんと一緒に、
いつも通り過ごしました。

お父さんは遅くなるとの言葉通り、
皆がお夕飯を食べ終わっても帰ってきませんでした。
「きいたん、ポール君と一緒に、
 お風呂入っておいで。」
「あい。」
紅玲お姉ちゃんに言われて、
きいたんは元気よくお返事をしました。
きいたんはまだ小さくて、
毛がぱやぱやとしか生えていないのですが、
お利口さんですから、
お姉ちゃんの言うことをちゃんときくのです。
お洋服を脱いで、タオルを持って、
さあ、お風呂場に出発です。

きいたんは、たらいを持って、
湯船のふたをガラガラ開けました。
お風呂に入るにはまず、フタを開けるのです。
そして、たらいでお湯をかき混ぜるのです。
きいたんはちゃんと分かってるんですから。
そこにポール君がやってきて、言いました。
「きいたん、お風呂に入浴剤入れようね。」
それを聞いて、きいたんはニコニコしました。
お湯がピンクになる入浴剤が、
きいたんは大好きだったからです。
「ちょっと待ってね。」
ポール君がお風呂の蓋をもっと開けようと、
ちょっと目を離した隙に、きいたんはさっと手を伸ばしました。
「あ、ダメだよ、きいたん!」
ポール君が気がついた時には、
きいたんは入浴剤をドボドボと、
沢山お風呂に入れてしまいました。

「あーあ、真っピンクになっちゃった。」
薄桃色になるはずだったお風呂を見て、
ポール君はがっかりしましたが、
ピンクが大好きなきいたんは、ニコニコしていました。
こうなってしまったら、仕方がありません。
ポール君はいつも通り、きいたんにお湯をかけて、
あわあわのタオルで体を洗い、シャンプーをして、
綺麗になったら湯船に浸かりました。
「ちゃんと温まらないとだめだよ、きいたん。」

どピンクのお湯に入ってご機嫌なきいたんが、
ぽかぽかになってお風呂から出て行きますと、
早速ルーが飛んできて、匂いをふんふん嗅いで言いました。
「きいたん、きいたん、いい匂い。
 ピンクの花の匂い。 お風呂の匂い。」
「きいたん、おふろにこなこさん、
 たくさん入れてやった。
 まっピンクにしてやった。」
そんなわけで、きいたんはポール君に怒られても、
ちっとも気にしませんでした。

次の日、またお父さんが言いました。
「きいこ、お父さん今日も遅いから、
 ちゃんと兄ちゃんたちの言うことを聞いて、
 先にお風呂に入っておけよ。」
「あい。」
きいたんは、またお父さんが遅くなると聞いて、
少しがっかりしましたが、お仕事なら仕方がございません。
お利口にお返事をして、今日もお姉ちゃんと一緒に、
皆に「行ってらっしゃい」のバイバイをしてあげました。
それからお姉ちゃんと一緒にお買い物に行き、
ヨーグルトを買ってもらって、ニコニコご機嫌でした。

きいたんがお昼寝から起きて、
お兄ちゃん達がお仕事から帰ってきて、
お夕飯になっても、やっぱりお父さんは帰ってきませんでした。
「きいたん、ノルさんと一緒にお風呂入っておいで。」
「あい。」
「ちょっと、名前短縮しないでよ。」
紅玲お姉ちゃんの言いつけに、
ノエルお兄ちゃんが文句を言いましたが、
お風呂には入らなければいけません。
「まあ、いいや。きいたん、行くよ。」
「いくじょー」
さっさと諦めたノエルお兄ちゃんと一緒に、
タオルを肩に担いて、さあ、お風呂に出発です。

お風呂のお湯をかき回し、ちょうどいい温度にしたら、
ノエルお兄ちゃんはきいたんにお湯をザブザブかけました。
きいたんは頭からお湯をかけられても、
全然平気です。
「きいたんはお利口だな。」
ノエルお兄ちゃんはそう言って、
体を洗うタオルもじゃぶじゃぶ洗いました。
それから自分も頭からお湯をざぶりと被りました。
その隙にきいたんは、さっと手を伸ばしました。
「あっ、駄目だよきいたん!」
ノエルお兄ちゃんが止めた時には、
きいたんはボディーシャンプーを、
タオルにちゅっちゅっちゅっと出してしまいました。

「あーあ、こんなにたっぷり出しちゃって。」
お兄ちゃんは文句を言いましたけれども、
こうなっては仕方がございません。
ノエルお兄ちゃんは、そのままタオルをクシュクシュ揉んで、
きいたんを洗いました。
まあ、泡が出ること出ること。
きいたんはあっという間に泡まみれ。
「なんだか逆に洗った気がしないよ。
 よく流しなよ。石鹸が残ったら痒くなるからね。」
お兄ちゃんが注意しますが、そんなの湯船に浸かれば大丈夫です。
「ちゃんと肩まで浸かって、十数えなね。」
「いーち、にー、たくさん!」
「駄目だよ、きいたん。」

ちゃんと十、数えてもらい、
ぬくぬく暖まったきいたんがご機嫌で出てきますと、
ルーがとっとこやって来て、
ふんふん匂いを嗅いで言いました。
「きいたん、きいたん、良い匂い。
 ふわふわ、アワアワ、石鹸の匂い。」
「きいたん、せっけん、ちゅっちゅってしてやった。
 もこもこひつじさんに、なってやった。」
そんなわけで、楽しかったきいたんは、
ノエルお兄ちゃんに叱られても、ちっとも気にしませんでした。

その次の日も、またお父さんが言いました。
「きいこ、お父さん今日も遅いから、
 ちゃんと兄ちゃんたちの言うことを聞いて、
 先にお風呂に入っておけよ。」
「あい。」
「カオスさん、最近、仕事大変そうですね。」
またお父さんが遅くなると聞いて、
お兄ちゃん達が何か言っていましたが、
きいたんは、大して気にしません。
よくわからないからです。
兎も角、お父さんは帰ってこれる時になったら、帰って来るでしょう。
取り敢えずお利口にお返事をして、皆がお仕事に出掛けた後で、
お姉ちゃんと一緒にお買い物に行き、
公園に連れてきてもらいました。
公園で滑り台を滑ったり、大好きな池のお魚を見て、
沢山遊んだきいたんは、ニコニコご機嫌でした。

きいたんがおやつを食べて、
お兄ちゃん達がお仕事から帰ってきて、
お夕飯になっても、やっぱりお父さんは帰ってきません。
「きいたん、今日はお姉ちゃんと一緒にお風呂入りましょうか。」
「あい!」
ユーリお姉ちゃんに誘われて、
きいたんは大喜びでお返事をしました。
きいたんは、優しくて綺麗なユーリお姉ちゃんが大好きですから。
「いいなあ、きいたんは。
 ボクも一緒に入っても良いですか?」
「黙れ、ジョーカー」
ジョカさんが一緒にお風呂に入りたがり、
鉄お兄ちゃんに怒られました。
三人でお風呂に入ったら、狭くて仕方がありませんのに、
ジョカさんは変な事を言うものです。
けれどもジョカさんと、お友達のヒゲさんは、
何時だって変なのです。
それをちゃんと知っているきいたんは、
さっさとお風呂に向かいました。
「ジョカしゃん、バイバイー」
「はいはい、バイバイ。」
ジョカさんのことは、鉄お兄ちゃんに任せておけば大丈夫です。
それより、お風呂に入らなければいけません。

洗面所の鍵をしっかり閉めたら、お洋服を脱いで、
タオルを持って、お風呂に入ります。
ユーリお姉ちゃんに首回りや耳の後ろも、
しっかり洗ってもらい、シャンプーもしてもらったきいたんは、
実に綺麗になったと、ご機嫌でした。
後は湯船に浸かって温まるだけです。
「きいたん、ちょっと待っててね。」
お利口に大人しくしているきいたんに、
安心したお姉ちゃんが自分も髪を流そうと、
ちょっと目を離した隙に、きいたんはさっと手を伸ばしました。
「あっ、駄目よ、きいたん!」
お姉ちゃんが気がついた時には、
きいたんはリンスをたっぷり手にとって、
頭に塗りたくるところでした。
「リンスはこんなに塗らなくてもいいのよ、きいたん。」
こうなっては仕方がありません。
ユーリお姉ちゃんはリンスを流してくれましたが、
きいたんはちょっとしか髪の毛がありませんから、
リンスはほとんど洗い流されて、あちこちヌルヌルになってしまいました。
「こんなにリンス撒いちゃって、
 クーちゃんが怒らなければいいけど。」

ユーリお姉ちゃんが心配そうでしたが、
紅玲お姉ちゃんはきいたんにはそんなに怒りません。
それより、これできいたんもお姉ちゃん達みたいに、
髪の毛艶々になるに違いないのです。
ご機嫌なきいたんが、
タオルを体に巻いてお風呂から出て行きますと、
早速ルーが飛んできて、匂いをふんふん嗅いで言いました。
「きいたん、きいたん、いい匂い。
 お姉ちゃんと同じ、甘い匂い。 リンスの匂い。」
「きいたん、リンス、たくさんぺたぺたしてやった。
 おねえちゃんと、おんなじにしてやった。」
そんなわけで、きいたんはユーリお姉ちゃんを困らせても、
ちっとも気にしませんでした。

その次の次の日も、またお父さんが言いました。
「きいこ、お父さん、今日も遅いから、
 ちゃんと姉ちゃん達の言うことを聞いて、
 手間かけずに風呂に入っておけよ。」
「あい。」
きいたんはちゃんとお利口にお返事をしたのですが、
お父さんは実に不機嫌そうです。
「カオスさん、まだ仕事が終わらないんですか?」
ポール君に尋ねられ、机をダンと叩きました。
「全くだ! あいつら、どれだけ時間をかけりゃ気が済むんだ!
 今日中に片付かなかったら、城ごと纏めてぶっ飛ばしてやる!」
「出た、師匠の危険思考。」
「なんだか知らんが、やめろ。」
ぎりぎりと歯を鳴らして怒るお父さんに、
紅玲お姉ちゃんが呆れ、鉄お兄ちゃんが顔を青くして止めました。

お父さんのご機嫌が悪いので、きいたんも悲しくなりましたが、
泣く前にユーリお姉ちゃんが来て、抱っこしてくれました。
「カオスさん、きいたんが怖がるから、そう怒らないでちょうだい。
 しょうがないお父さんねえ。」
全くでございます。
なんとか泣くのを我慢して、ご飯を食べてしまい、
皆を見送りに玄関へやってきたきいたんに、
ノエルお兄ちゃんが言いました。
「きいたん、今日は俺らも遅いから、
 ちゃんとクーさんの言うことを聞くんだよ。
 きいたんはお利口だから、大丈夫だよな。」
「お土産、買ってくるからね。」
ポール君もバイバイをして、皆が出かけてしまうと、
紅玲お姉ちゃんが言いました。
「やれやれ、漸く煩いのがいなくなった。
 帰りも遅いらしいし、今晩は外でご飯食べようかね。」
その言葉通り、お姉ちゃんはさっさとお掃除やお洗濯、
買い物を終わらせると、きいたんを乳母車に乗せて、
ガラガラお散歩に出かけました。

出かけた先で、きいたんは美味しいおやつを食べさせてもらったり、
大きな公園で遊んだり、気持ちがいい木陰でお昼寝をしたり、
大層幸せな時間を過ごしました。
最後におなか一杯ご飯を食べさせてもらって、
こっくりこっくり、乳母車の中で居眠りしながらお家に帰ると、
ジョカさんが一人で不貞腐れながら、
きいたん達の帰りを待っておりました。
「もー どこ行ってたのさ!」
「そういう自分こそ、今日は帰りが遅いんじゃなかったの?」
ぷんすか怒るジョカさんに、
紅玲お姉ちゃんは呆れて聞き返しました。
「皆と一緒に遠出したのかと思ってたよ。」
「するわけないでしょ! 
 皆が何処に行ったと思ってるのさ!
 ベルンの死者の洞窟の深部だよ! 
 あんな暗くて、寒くて、臭いところに、
 一日がかりで死霊退治に行くとか、馬鹿臭くてやってられないよ!」
「つまり、その馬鹿臭い死者の洞窟特化とも言える戦闘スタイルのうちに、
 喧嘩売ってるものと見做していいかね?」
紅玲お姉ちゃんは今でこそ、きいたんと一緒にお留守番係ですが、
少し前はお化け退治の専門家でした。
その悪口を言う等、実に愚かな行為でしたが、
ジョカさんは大して気にしませんでした。
それがジョカさんだったからです。

「それより、早くご飯にしてよ! お腹減ったよ!」
「知るか。自分で作りなさいよ。」
「…あっ、じゃあ、二人で食べに行きましょうよ!
 もう、クレイさんったら、僕と二人でご飯食べに行きたいなら、
 素直に最初からそう言えばいいのに―」
「カップ麺ぐらい、作ってやろうかと思ったけど止めた。」
「御免なさい。もう言いません。」
「大体ね、きいたんがいるのに二人でとか、
 浮かれた脳みそを電信柱にぶつけてくればいいと思うよ。」
「そこまでは考えてなかった。
 きいたんを置いて出かけるとか、どんなネグレクト。
 流石にありえませんよ。」
「全く、実に愚かの極みだよ、あんたは。」
きいたん達とご飯を食べに行きたかったら、
ちゃんとお利口にすればいいのに、
ジョカさんは、どうしてそうしないんでしょうか。
きいたんは変なジョカさんだなあと思いながら、
お姉ちゃんとおしゃべりをするのを見ていました。

「まあ、台所荒らされても面倒いしね、お湯ぐらい沸かしてあげるよ。」
兎も角、紅玲お姉ちゃんは、
ジョカさんのご飯を作ってあげることにしたようです。
乳母車から降ろしてもらったきいたんは、
ジョカさんと一緒にお家に入り、手を洗いに洗面所へ向かいます。
そこへ紅玲お姉ちゃんが言いました。

「ジョカさん、ついでだからそのまま、きいたんとお風呂入っちゃってよ。」
けれどもジョカさんは、また文句を言います。
「えー 面倒いー
 あと15年ぐらいして、きいたんが美少女になったら入ります。」
訳の分からないことを言うジョカさんに、
紅玲お姉ちゃんが、珍しく大慌てで叫びました。
「あんた、それ、師匠の前で言ったらぶっ飛ばされるよ!」
けれどもジョカさんは全然平気。
「いや、『ある意味、実に健全。』と言われました。」
「もう、発言済みかい…なんて、チャレンジャー…」
どういう訳か、お喋りをしていただけなのに、
紅玲お姉ちゃんはぐったりと疲れ果ててしまったようです。
可哀そうなお姉ちゃん。
幸い、お風呂は朝のうちに洗い終わっています。
湯船にお湯を張って、新しいパンツとシャツ、パジャマを用意したら、
さっさとお風呂に入ります。

「あーあ、面倒なことになったなあ。」
ぶつぶつ文句を言いながらも、
ジョカさんはちゃんとタオルを泡立てて、
きいたんを洗ってくれました。
爪の間も、首の周りも、
きれいに洗ってもらっていい気持ち。
きいたんはすっかりご機嫌です。
次は頭を洗いましょう。
「ちゃんと耳、塞いでなさいよ。」
きいたんの頭からお湯をざばーっとかけて、
タオルで顔を拭こうとしたジョカさんは、
タオルがまだ、泡まみれなことに気が付きました。
「先に濯いでおけばよかった。
 ちょっと待ってね。」
たらいにお湯を張って、タオルをすすごうと、
ジョカさんがちょっと目を離したすきに、
きいたんは、さっと手を伸ばしました。
「あっ、駄目だよ、きいたん!」
ジョカさんが気が付いたときには、
きいたんはシャンプーを山盛り出して、
頭にペタっとつけてしまいました。

「きょひーーーーーーーーーー!!」

なんてことでしょう!
頭がスース―ヒリヒリします!
きいたんはびっくりして、大きな声で泣きだしました。

「ふぎにゃああああああああああああ!!!」
「なんでボクのトニックシャンプー使っちゃうのさ!
 駄目だよ、じっとしてて!!」
ジョカさんが大慌てでシャンプーを流してくれますが、
今度は目に入ってしまいました。
「うわあああああ! うううあああああー!!!」
「きいたん? きいたん?!」
「どうしたの!? 大丈夫!?」
「大丈夫! 大丈夫だけど、大丈夫だよね?!
 きいたん、今流してあげるからじっとしててってば!」
お風呂の中ではきいたんとジョカさん、
外ではルーと紅玲お姉ちゃんが大騒ぎになりましたが、
何とかシャンプーは全部流れていきました。

「ひいい、ひいいー…!」
「大丈夫だよ。ちゃんと流したから、すぐによくなるよ。」
泣きべそをかくきいたんを、よしよしと抱っこして、
ジョカさんはお風呂に入れてくれました。
それから、タオルで何度も顔を拭ってくれましたので、
シャンプーの効き目は薄くなってきて、
きいたんは漸く泣き止みました。
安心したジョカさんは、カンカンになって怒ります。
「もー きいたんったら。
 お兄ちゃんのシャンプーは、
 勝手に使ったらダメって言ってるでしょ!
 もうやったら駄目だからね!」
「…あい。」
今回ばかりはジョカさんの言う通りです。
何できいたんは、あんなに沢山シャンプーを塗ってしまったんでしょうか。
まだ、頭がスース―します。
もう一度、頭から流してもらい、
綺麗になったきいたんは、しょんぼりとお風呂から出ていきました。
直ぐにルーがすっ飛んでやってきます。

「きいたん、きいたん、大丈夫?」
「うん・・・」
心配そうに、クンクン鼻を鳴らしたルーは、
途端に顔を顰めました。
「くさい! きいたん、ミントくさい!!」
「きいたん、おにいちゃんのシャンプーつかっちゃった。
 あたま、すーすーになっちゃった。」
「くさい! きいたんが、お兄ちゃんくさい!!
 匂いがスース―する!」
ルーはきゃんきゃん鳴きながら逃げていき、
きいたんは、ますますしょんぼり。
代わりに紅玲お姉ちゃんがタオルをもってやってきました。
「きいたん、どうしてトニックシャンプー使っちゃったんだい?」
「きいたん、たくさん、たくさんがよかった。
 でも、やんなきゃよかった。」
「そうかい。」

お姉ちゃんは、それ以上聞きませんでしたが、
きいたんをタオルでくるくる拭いて、
ベビーパウダーをパタパタ付けてくれました。
それから新しいシャツとパンツ、パジャマを着て、
漸く人心地付いたところで、玄関の鈴がちりりんと鳴りました。
紅玲お姉ちゃんが不思議そうに目をぱちくりさせます。
「おや、だれか帰って来たね。」
誰が帰ってきたのでしょうか。

「ただいまー」
「おとうたん!!」
この声はお父さんです。
きいたんは大喜びで玄関に走りました。
「おとうたん!」
「おう、きいこ、ただいま。」
お父さんは、少々やつれてお疲れのご様子でしたが、
きいたんの顔を見て、嬉しそうに笑いました。
「おとうたん!」
きいたんが大喜びで手を伸ばせば、
お父さんは慣れた様子でひょいと抱き上げてくれます。
紅玲お姉ちゃんもやってきて、ききました。
「師匠、仕事は終わったんですか?」
「おう。お陰さんでな。
 明日から、ゆっくりできそうだ。」
お父さんは安心したように笑いながらも、
きいたんがパジャマを着ていることに気が付きました。
「なんだ、きいこ、もうお風呂に入ったのか?
 お利口にしてたんだな。」
「あい!」
そうです。
きいたんは何時だってお利口なのです。

「ふししし! ふししし!」
きいたんは抱っこされたまま、お父さんの頭に手を伸ばし、
ぎゅっと抱きつきました。
お父さんは苦笑いし、それからあれっと言いました。
「なんだこの匂い。 きいこ、お前、なんかくさいぞ!
 スース―する!」
お父さんの足元で、ルーがわんわん吠えます。
「きいたん、くさい! きいたん、くさい!
 ミントの匂い! トニックシャンプーの匂い!」
「きいこ、なんでお前、トニックシャンプーなんか使ったんだ?
 また、勝手に使っちゃったんだろ。」
お父さんは何でもお見通しです。
きいたんは、しょんぼり言いました。
「きいたん、かってにつかわなければ、よかったよー」
「そうだな。」
お父さんは笑って、きいたんを下に降ろすと、
肩をこきこき鳴らしました。

「ああ、腹が減った。今日の夕飯は?」
紅玲お姉ちゃんが、ちょっとばつが悪そうに答えます。
「今日は皆、遅いって聞いたから、作ってませんよ。」
「マジか。」
「でも、カップ麺なら直ぐできますよ。」
何処から、どうやって聞いていたのやら、
ジョカさんがお風呂場から叫びます。
「それ、ボクのだからね! 
 先に食べるの、ボクだからね!」
「はいはい、分かった分かった。」
うるさいジョカさんに、紅玲お姉ちゃんは肩を落とし、
諦めたように言いました。
「まあ、残りの連中も食べて帰ってくるとは決まってないし、
 スパゲッティーでも作りますか。
 ミートソースなら、すぐ出来るでしょ。」
「じゃあ、それで。
 なんか手伝うか?」
お父さんと紅玲お姉ちゃんがお夕飯の支度をはじめ、
きいたんもニコニコしました。
「きいたん、すぱげてぃ、だいすきだよ。」
「よかったねえ。」
ルーがしっぽをパタパタ降ります。
お兄ちゃんたちも、もうすぐ帰ってくるでしょう。
そんなわけで、きいたんは今日も幸せに暮らしましたとさ。

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津路志士朗
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